成功本が役に立たない理由

お金を働かせろと成功した人たちはいう。

自由を手にするために。会社に縛られないために。転職や起業に十分なお金があれば、雇用不安に怯えて会社の犬になることもない。ステップアップを目指して大きな賭けにでることもできる。つまり、それだけのリスクを取れる。そこで投資の話になる。分散投資で固めのポートフォリオを組めば年利5%弱くらいで資産運用できるという。なるほど、銀行預金とは雲泥の差だ。けれども、だ。それでなんとか普通に暮らしていけるだけの収入を得ようとすれば元本はいくら必要か。年収300万としても元本は6,000万。コツコツ貯めろと?これだけで遠い目になる。

預金好きな若者が増えているという。就職と同時に投資を始めて、大きなリスクは取らず、堅実な運用を続けたとする。手取り18万の内、3万を年利0.1%で元本保証の普通預金に、リスク資産として5万を年利5%で運用する。1年後の預金額は36万とちょびっと。リスク資産が63万程度である。この年昇給してリスク資産に回す額を1万増やす。また1年経つと、預金72万とちょびっと、リスク資産は142万弱。リスク資産に回す金額を2年毎に1万アップするとして、10年頑張る。預金額は、だいたい362万くらい、リスク資産は1,156万くらいになると思う。たぶん。

この間、この若者はかなりの節約生活を余儀なくされる。まあ、それで満足なら問題はない。ぼく自身、実はさほど日々の生活にお金をかけたいとは思わない。節約よりも浪費する方が努力が要る気さえする。若い内はお金を使うことよりも仕事ができるようになり、先のことを考えられるようになる方が大切だ。そういう考え方はさして不自然でもないと思う。それはつまり、生きる力を手に入れろ、という意味でもある。ただし、だ。ここまで堅実に生きても、普通にしていては10年で1,500万程度の資産しか手に入らないのである。4大卒なら既に33歳である。

23歳からかなり意識的に蓄財してもこの程度なのである。ただし、彼らにはこの時点でキャリアと元手がある。勝負がかけられる。勝つか負けるかは準備と運次第だろう。成功者の影には必ず敗者の姿がある。パイは無限にあるわけではない。一方で、就職氷河期にさしたるキャリアも積めずフリーターやニートと化した人たちや、行動するも賭けに負け続けて身を持ち崩した人たちがいる。彼らが30代も半ばで一念発起する。なんと絶望的な状況だろう。キャリアも1,500万もない。彼らが次の10年でそれらを手にするために必要な努力は先の若者の比ではない。

結局のところ、成功者たちはどこかで大金を掴んでいるんだろう。いずれ投機的な行動があったに違いない。機に投じる資本は、この場合、お金とは限らない。自らのキャリアかもしれないし、アイデアかもしれないし、人を見る目かもしれない。とにかく、行動することで大きな獲物を手にした。常人との違いは結局のところここに収斂されるように思う。そして、この最大のターニングポイントについては、おそらく誰も法則化できないし、ノウハウとして体系化することもできない。投機はギャンブルだからだ。だから、あらゆる成功本はまず成功者を生まない。

もちろん、ギャンブルに勝った人たちがみんな成功し続けるわけではない。成功者として君臨している人たちは、つまりうまくやった人たちである。これについては、ある程度正攻法が存在するのだろう。実は、大抵の成功本が教えるのは、この辺りのノウハウである。だから、賭けに勝ったときこそ成功本を読むべきだし、先人たちのアドバイスに耳を傾けるべきである。たまたま入ったベンチャーがいきなり上場して持ち株が大変な額になったとか、突如アラブの王族のご落胤だということが判明して大金が転がり込んだとか、そんな人にこそうってつけといえる。

成功の端緒すら掴まずに成功本ばかり読むことに意味はない。無駄である。もちろん、娯楽として読むことは否定しない。それはエジソンの伝記を読んで面白がるようなものである。エジソンになろう思ってエジソンの伝記ばかり読んでいても仕方がない。エジソンになりたければ伝記など読んでいる間に発明に勤しむべきである。勝間本には本当には勝間和代になる方法は書かれていない。いや、若い内に参考程度に読んで、自らの境遇に読み替えて実行できるだけの力と運があれば、成功本にも多少のご利益はあるかもしれない。が、そんなのは稀なる出逢いだろう。

つまり、成功本とは一番のターゲット層には役に立たないシロモノなのである。

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