ジョブホッピングの質を邪推する

辞める理由などより、問題はその態度である。

職を離れるワケなど人それぞれで一向に構わない。にしても、だ。辞める人間が去り際に、会社の悪口を好き放題に撒き散らしていくのには正直閉口する。余程腹に据えかねてのことなんだろうけれど、聞く方は余り気分の好いものではない。何も後に残る人間に社の不満をぶちまけずとも良さそうなものだ。当人に嫌がらせのつもりはないにしろ、少しは聞かされる側の気持ちも斟酌してはどうかと思う。辞めないには辞めないなりの理由があるのだし、自分の勤める会社を悪くいわれて嬉しい人間などそうはいないだろう。

ジョブホッピングという行為そのものを、ぼくはそれほど悪いことだとは思わない。そうした人生設計があってもいい。神経をすり減らし、身体を壊してまで職場にしがみつくような会社依存体質よりはずっと健全だと思う。けれども、毎度会社や職場環境に不満を募らせて離職するとなると話は別だ。世に理想的な職場なんてものがそうそうないように、悪いばかりの職場なんてものもそうはない。もちろん、会社による長短の違いはあろう。であれば、合う合わぬがあるのは致し方ない。人と会社も縁のものである。

けれども、どこへ行っても思うように行かない、ストレスが溜まる、不満が爆発するというのは少し違いはしないか。こういう人は、まず自分の適応能力を疑ってみるべきじゃないのか。自分に対する評価や与えられる仕事の質に対する不満は、本当に会社や上司や同僚が悪いせいなのか。就業環境や待遇に対する不満は入社前に予測できなかったのか、あるいは、変えるための働きかけは十分にしてみたのか。いつも人間関係がこじれるとか、上司と反りが合わないだとか、こうなると真面目に聞く気すら失せてくる。

この1月、2月で4人もの同僚が退職していく。独立するというひとりを除いて先の話は聞かない。何しろ同じ会社とはいっても、別の事務所で働いていた人たちである。行き来するのに片道1時間ほどもかかる場所である。仕事で絡みのなかったぼくなどは、ほとんど顔を合わせる機会すらなかった。内のふたりが、最終日ということでこちらの事務所にも挨拶回りにやってきた。中には仕事で頻繁にやり取りのあったメンバーもいる。女同士きゃーきゃーと嬌声をあげ、親しげに話す声が聞こえてくる。その辺りまではよかった。

今日で終わりだという思いが、彼女の気を大きくしていたのかも知れない。内のひとりがおどけた大声で、その場にいない上司、同僚、クライアントらのことを悪し様に罵り始めた。悪口雑言の絨毯爆撃である。あの調子だと、彼女と仕事をしたほとんどすべての人間が腐されていたんじゃないかと思う。しかも、極々内々の話だろうと思うようなことまでボロボロと喋り捲るのである。実に見苦しい。たとえ、多少実務に秀でたことろがあったとしても、こんな人材は会社のためにも辞めてもらった方がいい。

会社や上司や同僚に不満を持つのは構わない。問題はその対処法である。少なくとも自分に理があると信じ行動できる人間なら、こんなみっともない辞め方はしないはずだ。その都度改善を目指したはずである。要するに、今日の今日まで自分の就業環境の改善を試みることもなく、ただただ不満を溜め込み、それがために職を離れようというのである。職場は誰か偉い人が良くしてくれるべきものとでも思っていたんだろう。脳天気かつ他力本願。およそ自己解決能力なんて言葉とは無縁の精神構造である。

こんな辞め方をしていては、いくら転職してもダメだろう。自分に合った環境を誰かが用意し続けてくれるなんて、そんな都合のいい職場はない。心地好い就業環境を望むなら、自分がそれを目指して努力するよりない。働きにくさをすべて環境や他人のせいにしている内はダメである。無論、会社組織にも何ら貢献しない。会社に貢献しないということは、評価もされず、待遇もよくならないということである。雇用者側からすれば、こういう人材は派遣かバイトで作業単価か時間単価で雇うのが効率的である。

せめて実務能力だけでも人並み以上にあることを祈る。

ああ、こういうのを余計なお世話というのだろう。ずいぶんと上目線な正論を並べてみたけれど、これはこれでキレイごとに過ぎるという意見もあろう。ご尤もである。この世には頑張ってもダメということがいくらでもある。というか、そういうことの方が多いかもしれない。だから、人は成長するほどに無駄な努力をしなくなる。けれども、そうする内に、実はできるかもしれないことでさえ、頑張ることを止めてしまってはいないだろうか。あるいは、どうせ無理だというのを自らの怠惰の理由にしてはいないだろうか。

人の振り見て何とやら…自戒を込めてここに記しておく。

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