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みんな社畜で市場の飼い犬で性奴隷で肉の虜囚である
社畜、なんて趣味の悪い造語がある。
企業小説やなんかで使われる分には悪くない言葉だろう。悪趣味ゆえに価値がある。何やら下品でドロドロしていて雰囲気を盛り上げるのにひと役買ってくれそうだ。けれども、安い給料でいいように使われている自分は社畜だとか、プライベートを犠牲にしてまで働くあいつは社畜だとか、自他のラベリングに使うとなると話は違ってくる。趣味は悪いし、頭も悪い。レトリックを正しく消費できないというのは不幸である。レトリックというのは「うまいこという」ためのものであって、何かを定義するためにあるのではない。誰かを規定するために使うなど本末が転倒している。
たとえば、「人は欲望の奴隷である」というレトリックは真実のある側面を衝いているかもしれない。けれどもそれは、およそ誰にでも当てはまるという意味で実質的ではない。社畜も同じである。それは、一般的なサラリーマンなら誰しも覚えがあるだろうある側面を取り上げて造られた言葉だから「うまいこと」いえているのである。まあ、個人的にはそれほどうまいとは思わないけれど、それなりにキャッチーな造語だとは思う。そもそも「隷属」というのは便利な概念である。買い物好きは物質主義の奴隷だし、企業経営者は資本主義の奴隷だし、人の心は肉体の奴隷である。
会社を儲けさせるために働くなんて馬鹿馬鹿しいというなら、何のために何をすれば馬鹿馬鹿しくないのか。恋愛のためにファッションセンスを磨くことなら馬鹿馬鹿しくないのか。健康な身体を維持するために日々の運動や食事に気を配ることなら馬鹿馬鹿しくないのか。「会社のため」はダメで「恋愛のため」や「健康のため」ならダメじゃないという根拠は何なのか。プライベートが大切だなんて標語を無批判に信じ込んでいるだけではないのか。あなたにとって「大切なプライベート」とは何なのか。当然だけれど、会社で働くことは「私」と切り離された世界の話ではない。
そもそも、プライベートとパブリックなど便宜的な区分にすぎない。実質的には完全なプライベートも完全なパブリックもない。たとえば、会社以外の友人と過ごすことはプライベートか。会社をパブリックとして対比するならプライベートだろう。けれども、恋人や家族との時間をプライベートとして対比するならそれはパブリックでもある。或いは、部屋でひとり思う様マスターベーションに耽る時間をプライベートとするなら、恋人や家族さえパブリックな存在だろう。大抵の人はTPOに合わせて行動するものだし、それをTPOへの隷属と考えたところで意味があるとは思えない。
ぼくたちは緩やかに繋がった自分の生を生きている。「会社のための生」でも「家族のための生」でも「性欲のための生」でも「生きるための生」でもない。すべてが「自分のための生」である。「何かのため」をモチベーションに変えて生きることは悪いことではないけれど、シンドイことの因果を「何かのため」に求めるのは不毛である。あなたは社畜だから辛いのではない。辛いから社畜だと思えるのである。そして、黙々と会社に貢献する人を見て社畜呼ばわりするのは、オタクを商業主義の金ヅル呼ばわりしたり、主婦を家政婦呼ばわりしたりするくらい品のない話である。
ぼくたちはあらゆる環境に隷属しているけれど、それゆえに不幸なわけではない。
posted in 09.07.08 Wed
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