賃貸か住宅ローンか

今時マイホームは庶民の夢なんて考える人がどの程度いるのかはわからない。それでも、片田舎に住む者の実感としては、若い世代の家族が続々と新築物件に入居してきているように感じられる。そうはいってもあまり景気の良い話は聞かない。となれば初期コストを抑えた販売戦略が効を奏しているということだろうか。頭金なしで買えるだとか、家財道具やら入居までに必要な諸経費分までローンにしてくれるだとか、とにかく元手のかからない商品をよく見かける。不景気対策としての住宅販売はそれだけ魅力的なんだろう。

そういえば、先週辺りの世界的株価暴落の引き金となったサブプライムローンも、元手の用意できない層にまで住宅を売ってしまうような仕組みだった。あれは不動産バブルをよりどころにしていたり、ローンが証券化されて世界中にばら撒かれたりして大騒動になったわけだけれども、将来返済に行き詰る債務者という点だけに注目すれば、似たような危険性を孕んでいるようにも思う。いずれ、どれだけ手軽に見える話だったとしても、自らの実力以上の借金はしない、というのが借りる者の嗜みというものだろう。

ともあれ、こんな具合にまず「買いやすい」下地がある。その上で、賃貸よりも購入を選ぶ理由としてよくみかけるのが「どうせ月に同額程度払い続けるならいつか自分のものになる持ち家の方がいい」というものだ。なるほど、確かに賃貸はいくら家賃を払っても大家のものである。「自分のもの」という点に価値を見い出すなら、これは確かにマイナス要素だろう。たとえばひとつの賃貸マンションに累計4,000万もの家賃を払い続けるなら、それは家を買った方がいいという考え方はあるかもしれない。

けれども、そんな想定は多くの人にとって現実的なんだろうか。月10万の家賃を払うとして、4,000万といえば400ヶ月、約33年分である。これを一戸建て購入と比較してみる。もの凄く単純化して、全額を金利4%の住宅ローンで賄うと仮定する。33年ローンで月の返済額を10万程度に抑えようと思うと、借入金は2,200万くらいが限界である。いい換えれば、2,200万の家を買い33年かけてローンを返済すると、利息を含めて4,000万近く支払うことになるわけだ。ぼくなどはこの段階で早くも買う気が萎える。

まず、大病をしたり職を失ったりといった不慮の事態に対応し難い。月10万の返済が苦しくなったときどうするのか。賃貸ならボロくて狭い格安物件にでも引っ越せば良い。賃貸は自分のものではないからこそ手放すのも簡単だ。これは案外に重要な点である。なにしろ簡単に家が売れる時代ではない。売るためにかかる費用も馬鹿にならないだろう。ローンが苦しくなったからと月5万の部屋に引っ越しても、家が売れない限り負債は消えない。もっといえば、売れても消えないかもしれない。

そんな不幸な事態を想定しないまでも、単に引越しを考えただけで頭が痛い。10年住んで引越すことになったとする。賃貸なら払い続けた1,200万はもちろんすべて大家のものである。ただし、負債はない。持ち家の場合どうなるか。返済した1,200万の内利息分は元金が減らない。酷く適当な計算になるけれど、まだ軽く1,700万くらいは借金が残るんじゃないだろうか。さて、購入時2,200万で築10年の物件である。10年経つと建物評価額はないに等しいという話もある。ならば1,500万で売れても200万の赤字である。

それでも一戸建てはまだいい。分譲マンションなんかはもっと恐ろしい。おそらく経年による価値の劣化は一戸建ての比じゃあない。購入価格が同じ場合、一戸建てに比べて土地価格の割合が著しく低いだろうからだ。しかもマンションというのは延々管理費用がかかり続ける。当然、売りに出すならリフォームは必須だろう。それでも外観なんかは変えられないわけだし、よほど利便性やなんかの点で大きなアドバンテージでもない限り、手放す際のリスクは一戸建て以上だろう。資産としては実に不如意なシロモノである。

当然の話だけれど、将来地価が上がると信じるなら持ち家は立派な財産である。バブルの頃などまさしくそうだった。ここでの結論には、都心部の一部優良物件ならいざしらず、購入時2,200万程度の物件に大きな価値の上昇は望めないだろうという後ろ向きな予測が根底にある。個人的には、超短期で返済できる目処が立つか、いっそ一括で買えるのでもなければあまり家を買う気にはなれない。もちろんマイホームにそうしたリスクを負って余りある価値を見い出せるなら、家を買うこと自体が悪いことだとは思わない。

あとは個々人の経済力と価値観の問題である。

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