利己的な恋愛はオタクや非コミュの専売ではない

この匿名女史がオタク仲間を袖にした理由は、単に利害の不一致だろう。

ダメな俺を丸ごと受け止めてくれ症候群

人はすべての事物を、自分の選択範囲内からしか選べない。当然、恋人も例外ではない。限られた交友関係の中から、自分が最適と思う相手を選択したり、相手から選択される努力をしたりする。選択の基準は人それぞれである。人の欲求はおよそ限りないけれど、すべての欲求が満たされることはないと知ってもいる。恋人に求める条件にも自ずと優先順位がつく。件のオタク仲間氏は選択肢の中から匿名女史を選ぼうとした。リスクを冒して交友関係を広げたり別の可能性に賭けたりするよりも、匿名女史と一緒にいる方が今よりも幸せになれると信じた。匿名女史に希望を見たんだろう。

だから、たとえ「交友範囲の中で唯一の女で、オタク趣味を認めてくれて、母親の代わりでもしてくれそうなのが私だったからじゃないのか。」という匿名女史の推測が当たっていたとしても、それを不当な動機だとする合理的な理由はあまりないように思える。これを「捻くれた見方」だというのは、そんな動機で告白されるのは不本意だということだろう。たとえば、オタク仲間氏にとっての異性が匿名女史ただ一人だったとしても、恋人として選択しないという選択肢はあったはずだ。「唯一の女」を恋人にしたいと思う。これもひとつの選択だろう。そんなに悲しむべきことだろうか。

つまり、匿名女史が求める条件の中には「複数の女性から選ばれたと思える」というのがあったのだろう。何人の女性から選ばれれば満足するのかは分からない。何人でも不満なのかもしれないし、もしかすると、複数の女性から選ばれたときそんなことは本質的な問題ではなかったと気付くのかもしれない。「オタク趣味を認めてくれ」るとか「母親の代わりでもしてくれ」るとかいうのも、恋人に望む条件として別に不当なものではないと思う。場合によっては求められて嬉しい女性だっているだろう。匿名女史だって別の人から同じことを求められて、同じように厭がったかはわからない。

相手を好きになるということは、「自分の求めるものを与えてくれる(orくれそう)」だと感じることだろう。求めるものは「きれいな顔」だったり「自分だけに優しい気持ち」だったり「裕福な暮らし」だったり「愛されているという実感」だったり「セックスの相性」だったり「自分のウンコを食べてくれること」だったりする。希望に貴賎はない。どれも等しく利己的である。多種多様な利己があるというだけのことだ。相手の利己である「自分の人生にいい刺激を与えてくれそう」と「一緒にオタク趣味で盛り上がれそう」を比べてどちらを選ぶかは、自分の利己との兼ね合いでしかない。

その意味で、匿名女史のエントリーはあまりフェアではない。相手の利己は色々と想像して書いてあるのに、自分の利己についてはあまり書こうとしていない。読み手は間接的にしか匿名女史の利己を想像できず、オタク仲間氏の利己ばかりが記憶に残ってしまう。人間同士の付き合いである以上、匿名女史にも恋人に求める条件があって当然だ。匿名女史がオタク仲間氏を好きになれなかったのは、そのオタク仲間氏が匿名女史の求めるものを持っていなかったからだろう。にもかかわらず、自分はこういう人を求めていたのに、彼はそうじゃなかった…という視点がスッポリと抜け落ちている。

恋愛なんて利己的なものである。が、利己的であることはなかなか肯定的に見てもらえない。相手はこんなものを求めてきた、とだけ書いて、自分は相手にこんなものを求めた、ということは書かない。利己を暴露された方だけが心証を悪くする。あまつさえ「ダメな俺を丸ごと受け止めてくれ症候群」などと名付けて、自分が好きになれなかった相手を「一般的に」ダメな男であるかのように書く。恋愛話としてはあまりにアンフェアである。うまく上目線な印象を抑えてはいるけれど、相手だけを批評のまな板に載せておきながら、自分自身の利己はうまく評価対象になることを回避している。

誰かと利己の擦り合わせに成功した匿名女史はオタク仲間氏を見下したかったんだろうか。


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「ダメな俺を丸ごと受け止めてくれ症候群」のメカニズム - シロクマの屑籠(汎適所属)
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確かに。この人、もしエリート商社マンが「俺の母親は冷たくて・・・」とか何とかかましたら、一発で落ちたかもしれないです。・・・腐女子って、どうしてオタクをそんなに近親憎悪するかね。ちなみに私は、カジキマグロの焼き方の上手い、オタク彼と結婚したいと、真剣にアプローチしたことあります。結果は年下過ぎて振られましたが。

> faye2071さん
そもそも「オタク」というのはその人の属性の一部をラベリングした極めて恣意的な言葉なわけで、「オタクだから」という理由で何かを判断するのは好悪を問わず些か粗忽な気はしますね。にしても、カジキマグロの焼き方がうまいというのは、どうもうまく想像ができません。世の中いろんな特技を持った人がいますね。

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