ボクノタメニ泣イテクレOut of the mouth comes evil.

まず前提として、処女萌えを嫌うのはただ好みの問題にすぎない。

・★ 電脳ポトラッチ: 処女萌えを嫌悪するのは処女である

処女信仰をジェンダーの問題とする議論は可能だろうけれど、ここでは単に恋愛対象としての処女萌えに限った話をする。リンク先にも書かれている通り、多くの処女萌えは妄想の産物である。特に童貞のオタクにとって処女は妄想を育てやすい属性なんだろう。一方で、非童貞のモテが処女を喜ぶのは、稀少性や自己顕示欲によるところが大きいように思う。程度の差はあれ、脱がせてみたら巨乳だった、というのと同じである。これらに対する典型的な批判としては、リンク先にもあるように、前者には「妄想の気持ち悪さ」、前後者に共通して「属性で選別する非礼」がある。

まず、オタクの処女妄想が気持ち悪いというのは文字通り好悪の問題である。エロゲやらエロ漫画やらの影響が色濃いとなればなおさらだ。個人の欲望に基づく妄想みたいなものは、処女萌えに限らず傍から見れば気持ちの悪いものである。そもそも他者の生の欲望など見たくはないというのが一般的な感覚だろう。一方、属性による価値付けに対する嫌悪というのも極めて一般的なものである。「巨乳だから」「美形だから」「金持ちだから」「社会的地位が高いから」「高学歴だから」「有名人だから」などなど、それを理由に好かれる当事者は大抵そのことにうんざりしている。

問題はここからである。ならば、自分の何を好きになってもらえば満足なのか。よく出てくるのが「人間性」という言葉である。属性萌えに対して「女を物として見ている」とかいうような批判が出るのも、この「人間性」信仰によるところが大きいのだろう。それでは、「あなたの人間性に惚れるとはどういうことか？」という質問に答えられる人はどれくらいいるだろう。或いは、ひとりの人間からすべての属性を剥ぎ取ったとき、そこには何が残るんだろう。批判者たちが想定している「人間性」の核は、たぶん「心」だとか「性格」だとかそれに類するものなんだろうと思う。

では、「誰にも分け隔てなくやさしい」とか「よく気配りができる」とか「いつでも前向き」とかいうのは属性ではないのか。もちろん、これも属性だし妄想でもあろう。いつでも誰にでもやさしい人間や、気の利くばかりの人間や、常にポジティブなだけの人間なんているわけはない。どれもその人の一面を見て判断していることに変わりはない。要するに、こうして簡単な言葉に置き換えられるような「性質」は、すべてその人の断片にすぎない。つまり、あらゆる好みは「属性萌え」みたいなものなのである。そうした分かりやすさは、こと恋愛においてはマイナスでしかない。

属性を認められることでは満足できないどころか侮辱にすら感じる。より総体的で全人格的な「自分」を認めて欲しい。個人の承認欲求はいまやそのレベルにまで高まっている。それは「まるごとありのままの自分」を認めて欲しいという欲求の表れでもある。ところが、人は人の総体を把握することなんてできない。だから、軽々しく「君のすべてが好き」だなんて歯の浮くような台詞をいっても信用はされない。逆にいえば、その台詞に真実味を持たせられれば相手は満足する。そのためには高度な妄想が必要だ。互いに互いを分かり合い、必要とし合っているという幻想である。

そうした幻想を育てるためには、相当に高度なコミュニケーションが必要だ。あらゆる、言語的、非言語的なコミュニケーションを駆使して、密なイマジネーションを構築していく。もちろん、運や相性にも大きく左右されるだろう。処女萌えのオタクがひとり悶々と育てる程度の浅薄な妄想とはレベルが違う。恋愛に求められるのは、より複雑で強固な「言葉にできない」ような妄想である。だから、具体的な「属性」よりも、抽象的な「人間性」が重視される。非コミュなオタクに恋愛が難しい理由がここにもある。コミュ力が低いと運に頼る割合が大きくなりすぎるのである。

教訓。恋愛をするなら、処女萌えに限らず具体的な好みを明らかにしてはいけない。