ライフハック系男子は占いを信じてビジネス書を書くか?

ライフハック系男子が世に蔓延して久しい。

ライフハック系男子はIT系周辺に多く生息している。が、決してIT系男子ではない。そういう人も少しくらいはいるかもしれないけれど、たいていはIT系男子が生み出したプロダクトやサービスにいち早く飛びついて見せるただの消費者である。常にアーリーアダプターであり続けるため、情報収集と情報処理の効率化にかけては人後に落ちない自負を持っている。「効率化」はライフハックの一翼を担う重要なキーワードである。ライフハック系男子はブロガー系男子の亜流として存在している。ライフハックはブログで発表してPVを稼ぐところまで込みでライフハックだからである。ライフハック記事を書くためにライフハックを実践し、それがまたライフハック記事のネタになるというウロボロス構造は、たいへんに効率的だけれどライフハックのためのライフハック手法しか生みだせないという残念な欠陥がある。が、ライフハック系男子には夢がある。ライフをハックし続けた先に素晴らしい世界を幻視する能力を身に付けている。毎日早起きするだけで単著が出せて印税生活ができるようになったり、ランニングを続けるだけでプロブロガーとしてアフィリエイトで食えるようになったりする。もちろん、早起きやランニングを続けるために最新のプロダクトやサービスを導入することは忘れない。そうやってライフハック系男子はライフハック系フォロワーに夢と希望を与える。ライフハック系男子は自らライフハックの体現者として、その成功者として、あるいは成功しつつある先輩ライフハッカーとして振る舞う。ライフハックでジョブズになった人間はいないけれど、フォロワーとともにジョブズを目指すのがライフハック系男子である。目指すものも目指す手法も、すべてインターネットから拾ってくる。効率的にやればやるほど誰がやっても結果は同じになる。イノベーションからもっとも遠いところにいるのがライフハック系男子である。ライフハック系男子は規格品といってもいい。だから、ライフハック系男子のブログはみんな同じ言葉使いで同じ内容が書かれている。不毛に見えるだろう。が、そこに意義を見出すのが「ポジティブシンキング」という名の錬金術である。「効率化」と並ぶライフハックの一翼である。風が吹けば桶屋が儲かる式のハイコンテクスト回路が、ライフハックには予めインストールされている。その機能を存分に使いこなし、自分と他人をポジティブに欺き続けることこそ、ライフハック系男子の面目躍如である。彼らは幸福であり、幸福を売る伝道師でもある。伝道師であり続けることで、自らに幸福をフィードバックし続ける。あたかも、自らが幸福の永久機関であるかのように。このように、ライフハック系男子というのは大変に厄介な生き物である。あたら持ち上げたり下手に批判したりしてはいけない。目についても見ないふりをするくらいしか有効な手立てはない。

…といった具合に、「○○系男子」だの「○○系女子」だのといったものをでっちあげるのはさして難しくない。「草食系」や「こじらせ系」のように、キャッチーで共感力の高いワードが時流にのって拡散するのは、選ばれた言葉や初期の定義に、拡大解釈や誤解や曲解を許す「アソビ」があるからだろう。共感力が高いのは占いでいうバーナム効果のようなもので、この手のラベリングはたいてい「身近な誰か(自分含む)に当てはまる」内容になっている。自分なら「ああ、その気持ちわかるわ〜」となるし、他人なら「ああ、そんなやついるわ〜」という話になる。身近な人間に気の利いたあだ名をつけるのと変わりない。つまり、言葉遊びである。そこに批評性などはなく、芸の巧拙がすべてである。その意味で、ぼくはこうした不毛なラベリングが嫌いではない。が、批評家の顔をしてキャッチーなラベリングに挑む人を見ると、なんだかなあと鼻白んでしまう。たとえば、ビジネス書のタイトルやなんかでその手の言葉を見つけたときは、その本の批評性をグッと低く見積もることにしている。タイトルを見た瞬間、「うまいこというね」と思っても、同時に「それ以上の中身はないだろう」と思ってしまう。そもそも、大喜利のネタを自分で解説するくらい野暮なことはない。

さて、いい加減『ライフハック先進国の崩壊』の執筆に戻らねば。

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