セックスと嘘とインターネット

ことが済んだ後、ぼくは決して煙草を吸わない。

最初のひとが君で良かった。つい、口をついて出てしまった、そんな間合いで、ボソリと呟く。嘘だ。彼女との行為に特別なものは感じなかったし、そもそも初めてではなかった。ぼくは、自分が初心に見えるらしいことを知っている。どうせ初めてであれ十人目であれ、妙なことさえしなければ分かりはしないのだ。初めてなの?…問われれば、ただ頷いてみせる。それだけでいい。それだけで彼女は《初めての女》になる。それが彼女の何を満たすのかは知らない。興味もない。初めてのぼくは、ほとんど彼女に奉仕しない。申し訳程度に乳房を口に含むくらいのことしかしない。

ずっとこうしていられるといいね。口調に僅かな感情を、慎重に、慎重に、乗せる。嘘だ。夜が明けて、新しい一日が始まったなら、ぼくはもう別のひとを探したいと思う。彼女の感情が許すなら、今すぐにでも。初めてだったらしい彼女は当然とても未熟で、ぼくはその未熟をもう充分に愉しんだ。これから熟すまでの時間を、彼女と一緒に歩みたいとは思わない。熟れた味は熟れた相手と愉しめばいい。誤解しないで欲しい。ぼくは彼女に、或いは、彼女たちに愛情を感じていないわけじゃない。愛のないセックスはつまらない。ただ、その愛が永遠である必要はないと思っている。

このまま眠っていい?…裸で彼女の腰を軽く抱いたまま、囁く。囁きながら、彼女の柔らかい髪をゆっくりと撫でる。嘘だ。煙草を吸って、シャワーを浴びて、自分の部屋に帰って、ただ独り、泥のように眠りたい。ロマンティックな空気は、一分一秒毎に薄らいでいく。ぼくはその幻想が長く続かないことを知っている。三ヶ月の幻想と、ひと晩の幻想。どちらがよりぼくを、彼女を幸せにするだろう。幻想の後にやってくる幻滅は、回避できるだろうか。頸の下に敷かれた左腕が痛い。キスするふりをして、腕を抜く。シーツの皺が上腕に転写されている。ぼくは眠る努力をする。

もし、できてたらどうする?そうだね、ぼくは男の子がいいな、もしも女の子だったら君より愛してしまうかもしれないからね。ぼくは、躊躇わずに答える。もちろん、嘘だ。妊娠が発覚するころにはケータイのメモリーから彼女の名前は消えているだろうし、ぼくは相手の分からない着信には応えない。だから、中絶することになっても費用を渡すことさえできないだろう。朝、ぼくは名残を惜しむように、何度も振り返りながら彼女の部屋を後にする。もう、彼女とはしない。そう思うと、確かに名残惜しいような気もする。だから、この気持ちだけは嘘じゃない。嘘じゃない。

そうしてぼくは、匿名でブログを書く。彼女の未熟について。その愉しみについて。


【インスパイアされたエントリー】
初体験の話に便乗して
#睦言が痛いのは自明。つまり敗因は台詞ではない。増田の気持ちを盛り上げ損ねたことだ。

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