はてなブックマーク的未来の恐怖

情報というのは、どこに、どれだけ、どんな形で提示されているかでその意味を変える。

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この辺りの議論を眺めていて思った。はてブ的な情報受発信のあり方は、考えてみればなかなかに怖いかもしれない。今さらいうまでもないことだけれど、情報は武器になると同時に凶器にもなる。はてブ的なシステムは「価値判断を介することなく」、その意味を増幅させる。良くいえば、検閲が行われない。裏を返せば、武器か凶器かさえ判断しない。そこにはもちろん良い側面もある。が、悪い側面も無視はできない。また、こうした問題における正負は、ある程度トレードオフの関係にある。それを踏まえた上で、はてブの特色の内、多く問題を孕みそうな部分を挙げてみる。

1.ある話題についての情報が機械的に集積、一覧されている定常的な場である。
2.その場に対して誰もが簡単に情報を追加、発信できる。
3.その場がある程度広く認知されており、公共性や影響力を持っている。
4.元の話題の当事者と場への参加者が持つ権限が平等である。
5.各発言者に責任が分散され、場全体として持つ影響力に対する責任が問いにくい。

たとえば、ネット上で公開されているあらゆるプロフィール情報を自動収集し、解析、抽出た結果を、1プロフィール毎にページ生成して公開するようなサイトを作ったとする。各プロフィールページは、収集元のブログやプロフィールページと関連付けられる。また、ネット上から自動収集したその個人に関連性が強いと思われる情報が一覧表示される。どこかのブログにでもその個人に関する話題を公開すれば、まもなく一覧に追加されることになる。気になるプロフィールはコメント付きでクリップすることができ、そのコメントも各プロフィールページに一覧表示される。

このサイトは、ただネット上にある情報を収集し、自動編集した結果を表示しているにすぎない。クリップコメントに関しても文責は当然クリップ主にある。もっと現実的な例も考えたけれど悪趣味なのでここでは書かない。よって、これがどの程度の精度で実現可能かみたいなことはとりあえず考えない。さて、ある人がA氏のブログを読んでいてその人となりに興味を持った。A氏の名前(ID名やハンドル名なども含む)で検索をかける。すると、件のサイトのプロフィールページが上位にヒットする。そこには、ウェブ上で収集可能な限りのA氏に関する情報が一覧されている。

関連ページの欄には、その人が別の場所で書いていると思われるブログや、利用しているらしい各種Webサービスの公開プロフィールページへのリンクが並んでいる。また、被言及ページの欄には、ネット上でA氏について言及していると思われるページへのリンクが、短いサマリーと共にずらっと並んでいる。そして、そのプロフィールをクリップしている人の数、クリップコメントと続き、そのコメント一覧には思い思いのコメントが書き込まれている。ある日、A氏自らがこのページを見ると、何やら酷い評判が立っている。個人情報をはじめ違法な情報はない。が、あまりに酷い。

ぼくがA氏だったらと思うと背筋が寒くなる。いくら個人が特定できない情報でも、自分のプロフィールが「死ねばいいのに」だの「頭が弱い」だのといった不特定多数の罵詈雑言にまみれている様子を想像するのはぞっとしない。ぼくには自らクリップコメントを書くか、言及エントリーを書くくらいしか対抗策がない。1,000人の罵倒クリップコメントに立ち向かう気力など到底湧かないだろうし、膨大な被言及一覧のリンク先にまで溢れだしたネガティブメッセージを各個撃破するなど不可能だ。ぼくはもうあらゆるWebサービスから撤退し二度と利用しようなんて思わないだろう。

もちろん、誹謗中傷などする人間が悪いのである。システムに悪意などない。けれども、情報が集約されることなく、また、他人の評価を一覧することができなければ、各々のネガティブ情報自体はそれほどの殺傷能力を持たなかったろう。その多くは、ほとんどの人にとって可視化されることすらなかったかもしれない。そしてこの場合、システムが「さらなる中傷の流れ」を作った可能性は極めて高い。さしたる影響力も閲覧者もないブログにひっそり書かれた中傷など、普通は虚空に虚しく響く以上の力を持ち得ない。それを大波に変える可能性をこのシステムは提供する。

そして、ひと度勢いを増した流れを、A氏となったぼくが止めることは極めて難しいだろう。

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