やっぱり美人は得なのか

地下鉄今里線地下鉄は高い。

どういうわけか、そんな思い込みがある。大阪市内を中心に移動していると、1区間から2区間程度の短距離移動が多い。そのせいだろう。最低料金が200円というのは割高感がある。時間に余裕があるときなど、1区間くらいなら歩くことも少なくない。

それでも比較的よく地下鉄に乗るせいか、時折、見知らぬ人に「一日乗車券」をもらうことがある。切符を買おうと財布を出していると、「切符買うならこれ使い」と声をかけられるのである。850円で1日乗り放題だから、それ以上乗ると分かっているときには重宝なアイテムだ。

昨日も通りすがりの女性がこれをくれた。

ぼくの利用区間は310円だったのだけれど、それでも電車賃が浮くのは助かる。本当はこういう使い方が許されるのかどうか、よくは知らない。一応、カード表面に譲るなとは書いていない。とはいえ普通はイケナイんじゃないかとも思う。思いながらも、有り難く頂戴した。

さて、こうしてもらった一日乗車券を使い終えると、なんとも不思議な使命感に駆られてしまう。受け取った好意をここで絶やすわけにはいかない。時は夕方。乗車券の寿命が尽きるまでにはまだ暇がある。ぼくが最終走者になるわけにはいかない。次の走者を探さねば。

改札を出るとすぐ券売機が並んでいる。財布を出して近付いていく人に声をかければすむ話である。問題はその人選だ。最初に目に付いたのはカップッルらしき男女である。これはパスである。やっかみではない。どちらか一人にしか渡せないからである。

次に目に付いたのは俯き加減の青白い青年である。声をかけようにも、周囲の景色などまるで目に入っていない様子である。手元に小銭も用意されていたらしく、凄い勢いで券売機に投入してしまった。やっぱり声をかけ辛い人というのはいるものである。

そのとき、ぼくの左手から一人の女の子がやってきた。

券売機に向いつつバッグから財布を取り出している。決めた。彼女に進呈しよう。歩く姿勢は快活そうだし、札入れを開きかけているところを見ると長距離である可能性も高い。人を寄せ付けないような妙なオーラも出していない。次へバトンを渡してくれる可能性もありそうだ。

そして何より美人である。

きれいにウェーブがかかった栗色の髪、控えめに縁取られた大きな目、少し小振りな唇、細身のコートが似合うすらりと長い腕、ミニスカートから伸びる形のいい脚…。どうせ声をかけるならこの子だろう。そう思わせるに十分なルックスである。

目の前を通り過ぎた直後、すっと手を伸ばして軽く肩を叩いて呼び止める。「地下鉄乗るならこれ使って。一日乗車券やから今日中やったら何回でも使えるし」「え、いいんですか?」「ああ、おれもう使い終わったから」…とかなんとか。

大阪市には悪いけれど、お陰で好い気分で帰路に着くことができた。

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