権威が提唱する渋滞回避術は現実的か?

この渋滞回避術、どうも釈然としない。

「渋滞学」の権威、西成活裕東大教授が伝授! 目からウロコの“究極”の渋滞回避術

「これで渋滞が回避できる」というよりは「これができるような状況を渋滞とはいわない」といった方がしっくりくる。が、それでは反論になっていない。つらつらと考えるに、これは木を見て森を見ずの類ではないかという気がしてきた。軽度の自然渋滞なら、ある程度、件の回避術でマシになるのかもしれないとは思う。けれども、たとえばゴールデンウィークのあの惨状が、これくらいのことで解消されていたとはとても思えないのである。理由は簡単だ。車が多すぎるからである。何を当たり前なことを、といいたい気持ちは分かる。分かるけれども、少しだけ待って欲しい。

説得力の道具といえば数字である。仕方がないから、文系ひと筋のぼくがあえて計算してみる。木ではなく森を見る計算である。ここに全長100kmの高速道路がある。西成活裕東大教授の言を信じるなら、頑張って車間距離40mを保つことが渋滞解消の分水嶺である。ところで、2008年中に日本で売れた車上位3車種は、ホンダ・フィット、トヨタ・カローラ、トヨタ・ヴィッツであるらしい。各車の全長はそれぞれ約3.9m、4.4m、3.8mといったところ。そこで、極めて大雑把にすべての車の全長を4mということにしてしまう。実際の平均値は知らない。が、細かいことは気にしない。

100km÷(40m+4m)≒2273。つまりこれが、全長100kmの高速道路を渋滞せずに走るための最大台数である。現実的な仮定ではないけれど、全員があの回避術を実行した場合これ以上の車が高速にのることはできない。ゴールデンウィークなんかで人出が過剰な場合どうなるか。たとえば、3000台の車がやってきた。727台の過剰である。それらは当然、高速の入り口で待つことになるだろう。渋滞の場所が高速道路から高速の入り口に変わっただけである。これを渋滞回避といっていいのかどうかは甚だ疑問である。実のところ、本当の渋滞というのはこういうものではないかと思う。

もちろん、例の渋滞回避術を一般道にまで敷衍して考えることは可能だろう。けれども、渋滞が道路の全長に対する利用率過多で起こるのだとすれば、先の机上の計算は有効だと思う。一般道での適正車間距離が何mなのかは知らない。ただ、代入する数値が変わるだけで渋滞回避できる最大台数に上限があることに変わりはないだろう。そして、本当に渋滞する道路というのは、その上限を上回ってしまうものではないか。残念ながら、証拠を持たないぼくに証明はできない。その意味で、現実には上限以下なのに心がけが悪いから渋滞が起こっているという可能性は否定できない。

まあ、こんなのは当たり前すぎて、ぼくが何か勘違いしているだけかもしれないけれど。

(追記)

ちなみに、NEXCOによるGWの渋滞予測で酷いところを取り出してみると、5月2日に九州自動車道の下りで60kmの渋滞というのがあった。昨年実績は51kmらしい。これを試算してみる。渋滞箇所の車間距離を平均1m、車の全長を平均4mと仮定すると、大雑把に50km÷(1m+4m)=1万台の車が並んだことになる。これが車間距離40mを守っていたとしたら、先頭から最後尾までの距離はざっと440km必要になる。九州自動車道の全長は346.4kmしかない。つまり、渋滞箇所以外に1台も車がなくても、すでに渋滞回避上限を超えている。やっぱり無理なんじゃないかな…。

(再追記)

何やら計算が大雑把すぎて突っ込まれ放題なので、もうちょっとちゃんと予防線を張っておくべきだったかもと反省している。車線が気になる向きは、{前掲の計算式}×車線数とでも読み変えてもらえれば。渋滞に巻き込まれる車の台数が増えるだけなので、結論は特に変わらないけれども。車間距離とか車の全長の平均とか、まったく現実のそれを反映しているわけではないので、考え方としてこんな計算をしてみただけということでお茶を濁しておく。計算の精度が低いことで、本エントリーの趣旨が変わるわけでもないので。そもそも渋滞長の測定方法もよく知らないという…。

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時間の概念が抜けているのがもったいない。渋滞にならずに流れていれば、同時に高速道路上にいる車も減るかも知れませんね。その結果が渋滞なしになるのか、やっぱり渋滞になるのかはめんどいから計算しませんが…。

> とおりすがりさん
仰る通り、時間の概念も本当は必要だと思うんですが、それをどうやって入れると試算として精度があがるのかがよく分からないので、こんなエントリーになっていたりします。結局のところ、混む場所にたくさんの人が行きたい時間帯っていうのは、案外同じくらいだったりして、それぞれがそれなりの時間差を受け入れて順番を守るってことにでもならない限り、大局的にはあまり変わらないのかな、とも思いますし。高速利用者のその日の先頭は午前0時で、最後尾は深夜24時として、1日の通過可能台数は何台か、みたいな試算をしても、実際にその通り利用時間を分散できる可能性は低いと思うので…。

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