楳図御殿建築差し止めの憂き目

つまらない人間というのはいるものである。

「まことちゃん」などの作品で知られる漫画家の楳図(うめず)かずおさん(70)が、東京都武蔵野市内に建築中の自宅を巡り、近隣住民2人が「異様な外観で、閑静な住宅街の景観が破壊される」として、楳図さんと建築会社を相手取り、建築差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てていたことが分かった。 (引用元:YOMIURI ONLINE

楳図かずおというのは一個の天才だろう。それは中川翔子が心酔していることなどとは無関係に変わらぬ事実である。確かにあの人は奇天烈なところがある。外見も挙動も怪訝しいといえば怪訝しい。けれども、決してワケの分からない人間ではないし、作品を読めば至極真っ当且つ洞察力に優れ、表現力に富んだ人間であることは明らかである。

トレードマークの赤白ストライプは、確かに悪目立ちする配色だろう。あのストライプのパジャマを着、あのストライプの布団に寝ている楳図かずおはやっぱり変わっている。その上、自宅までストライプにしようとは立派な数奇者である。こうした奇人の風流を許容できない頑なな精神というのは、傍から見ていていかにもつまらない。

こういう人がバルセロナに住んでいたら、サグラダ・ファミリアは着工直後に頓挫していたに違いない。安藤忠雄のコンクリート打ちっ放しだって、当時の隣人がこんな人だったら文句をつけられただろう。単に突出したものを嫌ったのか、お上品な上流意識を逆撫でしたのかは知らないけれど、理解できないものを否定する心性には同情を覚える。

この手の人は漫画みたいな低俗な娯楽は嗜まないのだろうし、楳図のことも気持ち悪い漫画を描いた古の奇人くらいにしか思っていないのだろう。別にぼくは楳図ファンというわけではないし、漫画を高尚な趣味だといい張るつもりもない。色々な価値観があってしかるべきだとも思う。楳図漫画などゴミだという人があっても別に構わない。

ただ、無自覚に己の価値観を押し付けるような、あるいは人の価値観を否定するような行為に及ぶ人間は好きになれない。もちろん、件の住人2人は別にぼくに好かれたいなどとは思ってもいないだろうけれど。いずれ鷹揚に構えていれば実害などないに等しい問題だ。世界の観光資源たる京都に住まう人間が高層建築を嫌うのとは次元が違っている。

赤白に塗り分けた外壁はオゾン層を破壊することも、騒音を出すことも、観光客を減らすこともない。「常軌を逸した構造で、そのような不快な建物のそばで暮らすのは苦痛だ」とはいったものである。このようなつまらない精神構造の人間のそばで暮らすことこそ苦痛である。楳図氏には是非、理解ある住民に囲まれて奔放に暮らして欲しい。

後のことは、東京地裁の賢明な判断を信じるよりない。

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同感。

この訴えた住人、テレビでコメントもしていたけれど、
「死ねと言われているのと同じだ」
な~んてことを言ってました。
これが現代建築の最新(というフレコミ)であれば
同じような文句が出たんでしょうか?
楳図かずおの家だから文句が出るんでは?
りりこさんのおっしゃるように実害なんて何もない。
ぜひ私はこのまま赤白ストライプの家を建ててもらいたいです。

りょうさん、いらっしゃいませ。
こういうことをわざわざ訴える気持ちがぼくには分かりませんが、ストライプの家の傍に住むくらいのことが本当に死ぬほど辛いんだとしたら、裁判所なんかよりもまずカウンセリングか心療内科にでも通うべきでしょう。きっと強迫神経症かなにかにやられてるんじゃないでしょうか。太い赤白のストライプを見ると泡を吹いて倒れるとかね。

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