海外旅行と非日常

国外に出たことがない。

これまで、それほど海外に行きたいと思ったことがなかった。海外に行く理由もなかった。そもそも国内ですら未踏の地ばかりである。海外の魅力とは何だろう。こと旅行という行為に限っていうなら、非日常体験というのが分かりやすい。日常がつまるかつまらないかは別として、たまにはルーティンからはずれてみたいという気持ちなら理解はできる。

ただ、ぼくの場合はフィクションやら妄想やらだけでも結構非日常に遊べる体質なので、海外渡航の必要性を感じてこなかったのである。日常だとか非日常だとかいうのも、結局は脳のアンテナの感度の問題でしかない。毎日同じことを繰り返していても、寸分違わずまったく同じ状況が繰り返されるということは物理的にも精神的にもあり得ない。

空の色も、周囲の人の様子も、通勤路の景色も、駅舎の老朽具合も、自分の体調も、他人に対する視線も、悦びのトリガーも、日々時々で違っているのが当たり前だ。ただ、常時そうした違いに過敏に反応し続けていたのでは人の脳は疲弊してしまうのかもしれない。それで多少の違いは日常という名の安定の中に吸収され、なかったことにされるんだろう。

であれば、アンテナをキリキリと伸ばしてやるだけで、人は非日常に足を踏み入れることができるはずである。むしろ、変わりない日常なんてものの方が欺瞞に満ちた幻想であることに気が付くことになろう。ただ、アンテナの感度は個人差があるかもしれないし、アンテナの伸ばし方が分からない人だっているかもしれない。ならば海外というのも手である。

日常化というのは言い換えれば慣れである。旅行というのは、能動的にアンテナ感度を調整しなくても、不慣れな環境が自動的に非日常を体感させてくれる。内面のコントロールではなく、外部環境を大きく変えることで非日常を実現するわけである。けれどもこれは、薬物中毒のようなものである。人間というのは刺激に慣れるようにできている。

子供の頃は繁華街に出るだけで非日常を味わえた。長じるほどに刺激を感じなくなり、テーマパークや観光地など、初めての場所でもさして心動かされなくなってくる。類似する過去の体験と照合され、新しい刺激すら自動的に類型化されてしまう。実はまったく違ったインプットを受けているはずなのに、こんなものか、と思ってしまうわけである。

こうして鈍化の一途を辿る感受性に、海外というのはそれなりに効くんだろう。

実は来月海外に出る可能性がでてきた。社員旅行で台湾に行く気配が濃厚なのである。こうしたことでもなければ、自分から海の外に出ることはなかったかもしれない。厭だとは思わないけれど、もの凄く愉しみだとかいう気分でもない。別に冷めているわけではない。アンテナの伸ばし具合が分からない。あまりキリキリでは疲れ果ててしまいそうでもある。

それよりも何よりもパスポートを申請しなきゃならない。これが実に面倒である。殆どの窓口が平日16時半でしまってしまう。しかも職場とは逆方向。どう考えても半休くらいでは済まない。調べると、代理申請ができるらしい。必要な書類を準備して他人に託すことができるわけだ。受領は本人しかできないけれど、こちらは日曜に受け取れる窓口もある。

ぼくは戸籍が遠隔地にあるものだから、これも郵送で取り寄せる必要がある。手数料が450円、送料が往復で160円。住民票も取るとさらに300円。そして証明写真に700円。パスポートの発行手数料に到っては10年で16,000円である。しめて17,610円。意外に金がかかる。ただし、住民票は住民基本台帳で参照できれば不要ということらしい。

それにしても、これだけインターネットが普及しているというのに、申請書くらいダウンロードできてもいいんじゃないかと思う。あの専用の紙じゃなきゃどうしてもダメだというなら、せめて各市区町村の役所にも置くとか、あるいは郵送対応するとかしてもらいたい。第一、特定の場所でしか配布しない理由がよくわからない。あまりに煩雑である。

これも公務員の仕事を減らさないための方策なんだろうか。

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comment - コメント

りりこさん、お邪魔します。
実は私も海外へ出たコトはなく、サッカーや音楽の話を観てきたように書くのは、自己矛盾を感じたりしてます、昨今は費用的にも国内旅行との差も縮まり、誘われても断わる理由に成りませんが、いずれにしても暇は有れども、まとまった休みを取って仕事から離れるコトが出来ないので、欧州サッカーツアーなど夢物語で終わりそうです。

余談ですが、以前ある会合で海外旅行の自慢話をする御仁に、周りが辟易としてた時、私に話を振られまして、『前科があるのでビザが取れない』と云ってその場を黙らせました、事情を知る仲間内からは後日絶賛されました。

MASAさん、いらっしゃいませ。
なんと、海外未経験仲間でしたか。納得のような意外なような…。ぼくのような零細な会社勤めでもまとまった休みなんてのは取れませんね。まあ、近隣国で飛行機が直接降り立つような国なら、下手をすると国内の田舎観光地より時間も金も掛からないわけで、海外も気晴らしの選択肢としては悪くないのかもしれません。欧州サッカーツアーとなると時間も金もたっぷりかかること請け合いなんでしょうけれども。
ともあれ、余談が爆笑なMASAさんのキャラに感服いたしました。

う~ん・・・・・お土産リサーチしとかんとな~( ̄▽ ̄) ニヤ


パスポートは早めに取った方がいいよ~。
旅行会社に見せなきゃならないし、混雑してるからね~。
楽しみだねぇ~( ̄ー ̄)ニヤリッ

musaさん、いらっしゃいませ。
はわわ、えらい人に見付かってしもた…。台湾なんていきません!嘘です!嘘です!大嘘です!ちょっと見栄を張ってみただけなんです!

…などと今更悪足掻きしてもせんない話ですね。パスポートは13日には受け取れる手筈が調いました。お土産は烏龍茶クッキーで勘弁してください(今すぐに通販で買えますが…)。

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