東芝HD DVD撤退の余波あるいは抜け駆け

購入したHD―DVDをブルーレイに交換・エディオン

なるほど、うまいことを考えたと思う。こうして日経に載る。その宣伝効果はちょっと馬鹿にできない。普通にイメージアップ広告みたいなものを出すより、恐らくは、ずっと効果的だ。消費者を第一に考えた英断に見えるし、事実、これで助かる客もそう多くないにしろある程度はいると思う。その点でいえば、たとえ戦略的な決断だったとして、世間の顰蹙を心配することもあまりない。もしかすると、下心などはまったくなかったのかもしれない。しれないけれども、あえて広告的な視点で見てみるとどうなるか。

たとえば、NEKKEI NETニュース面の記事直下に1行の広告を出す。これが1週間単位で200万かかる。会社名まで含めてたったの29文字で、記事の直下にある広告が、だ。確かに効果の高い掲載位置ではある。けれども、この手の広告はネットを使い慣れた人ほどクリックしないといわれている。HD DVDみたいな先進のデジタル家電好きはネット慣れした層が多そうだ。200万の効果が今回の記事に勝るとは思えない。つまり、あの記事には200万以上の価値はある…可能性が高いように思える。しかもこれは、NEKKEI NETに限っての話である。

実際には、読売、ITmedia、Impress Watch、+D LifeStyleといったニュースを扱う各種サイトでもばっちり取り上げられている。東芝のHD DVD撤退はテクノロジー系としては今週最大のニュースといっても過言じゃあない。その関連ニュースとなれば扱いも違ってこよう。そして、何より大きいのはYahoo!だ。いわずと知れたYahoo!のトピックスに載ったのである。Yahoo!のトップページに金を出して広告を載せるというのは、それはそれは大変なことだ。何しろ1日で億単位のPVである。NEKKEI NETの1行広告どころの話じゃない。

じゃあ、消費者の間ではどの程度話題になっているのか。検索してみると、2ちゃんねるのニュース速報+なんかでもいち早くスレが立っていたようだし、どうやら、それなりに話題になっているようだ。もちろん好意的な書き込みばかりではないけれど、非難といっても売名だとかいうくらいのものだ。大局的には波及効果の方が大きい。諸々考え合わせれば、このニュースの広告効果は、どう少なく見積もっても数千万はくだらないだろう。あとは、実際にこの交換サービスでどの程度のマイナスがでるのか、という話になる。

まず、今回交換対象になるのは、東芝のHD DVDプレイヤー及びレコーダーで、HD DVD搭載のパソコンは含まれないようだ。また、交換するHD DVD機よりもBD機が高い場合は差額を支払う必要がある。逆の場合に差額が返ってくるのかどうかまでは調べていないから分からない。いずれ、安いHD DVD機を持ち込んで、BDのハイエンド機に無償交換しろ、みたいなヤクザなことはできない。まあ、当たり前のことではある。ともかく、店側の損失としては、東芝が一切関知しないという前提で、返品された本体代金-BD機の販売利益ということになる。

ところで、「2008年の次世代DVD戦争を総括する(その1)万全の横綱相撲だったBD陣営」あたりの記事をみてみると、東芝のHD DVD機国内出荷数は、プレイヤーが1万台、レコーダーが2万台の計3万台程度に留まっているらしい。出荷数ということは、消費者の手に渡った数は更に少ないはずだ。ここから先はデータがないので適当にいく。今時在庫を大量にダブつかせるような商売をする小売はたぶん少ない。とはいえ、在庫切れという話もあまり聞かないから、多めに見積もって6割の1万8千台が売れたと仮定する。

さて、エディオンのグループ店舗は全国に1,000店以上あるという。関西で馴染みのあるミドリ電化をはじめ、基本的には郊外型店舗が主流らしい。こうした電気店は、まず各ジャンルとも売れ筋メインの品揃えになっている。高価なハイエンド機は大抵取り寄せだ。たとえば最初期の40万近くもするRD-A1など取り扱った店舗があるとは思えない。後の普及機的な機種でさえなかなか10万は切らなかった。この価格帯となると完全に趣味人の玩具である。実際に在庫が動いたのは都心部の大型量販店が中心だったこと想像に難くない。

ここはひとつ、郊外型の底力を信じてエディオングループだけで1パーセントを売ったと仮定しよう。180台である。さらに、出荷台数の割合から60台をプレイヤー、120台をレコーダーと仮定する。このうち、実際に返品する人がどれくらいいるのか、これまた予想もできない。ただ、返品するときにより厄介なのは録画機である。HDDに録画を溜め込んでいる人は多い。これを全部メディアに映すのは大変だし、HD DVDからBDに乗り換えるのにHD DVDメディアに焼くわけにもいかない。捨てるかダウンサイズしてちまちまDVDに移すしかない。

また、交換を実行した場合、市販、録画を含めてすでに手元にあるHD DVDのライブラリがすべてパーになる。しかも安価なプレイヤーからの乗り換えとなると、結構な差額も支払わなければならない。予算の都合も出てくるだろう。そもそも交換に行くこと自体が忙しい日本人には相当に面倒だ。つまり、レコーダーにしろプレイヤーにしろ、交換には結構なハードルがある。ぼくならたぶん行かない。それならいっそ、壊れるまで使い倒そう。5年も持てば買った価値は十分にある。そう考える人も少なくないんじゃないかとも思う。

それでも、半数の人が交換サービスを受けたとしよう。プレイヤー30台、レコーダー60台だ。実際の購入価格の平均など調べようもないので、プレイヤーを6万、レコーダーを12万と勝手に決めてしまう。返金額はこれで900万となる。で、代わりにBD機を売るわけだから、これは純粋に売り上げになり利益が出る。それに大抵は差額を払って少し高い機種を買うことになるだろうから、ひとり平均1万の差額だったとしても990万の売り上げになる。20%程度の利益があるとするなら200万はマイナスを消せる。つまり損失は700万程度となる。

つまり、エディオンは数千万規模の広告を700万で買ったと考えることができる。

まあ、数字が適当だから実際のところどうなのかは知らないけれども。

related entry - 関連エントリー

trackback - トラックバック

trackback URL > http://lylyco.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/267

comment - コメント

コメントを投稿

エントリー検索