大阪市立科学館が東洋初のロボット「学天則」復元

昨年発表された「学天則」の復元が終了したらしい。

この「学天則」、1928年昭和天皇即位大礼の記念に開催された「大礼記念京都大博覧会」への出品を皮切りに、あちこちの博覧会を巡業して話題になった東洋初のロボットである。出品元は大阪毎日新聞社。制作は当時の同社論説委員だった西村眞琴。そもそもが生物学者の西村眞琴は、圧縮空気で生き物らしい滑らかな動きを追求し、両腕や首だけでなく表情まで変化するロボットに仕上げた。「天則に学ぶ」というネーミングしかり、あらゆる人種の特徴を併せ持つというデザイン思想しかり、当時既にこれだけのグローバリズムが存在したのかと意外に思う。

ぼくが「学天則」を知ったのは荒俣宏の小説『帝都物語』である。正確にはまず実相寺昭雄監督の映画“帝都物語”で見ていたのだけれど、その時は実在したロボットだという認識はまだなく、完全にフィクションだと思っていた。その後、原作を読み実在を知る。知って、当時の写真など見ると、映画の「学天則」はかなり忠実に作られたようだ。以来、ぼくにとって「学天則」といえば“帝都物語”のあのイメージである。ちなみに、このとき西村眞琴を演じた西村晃は、西村真琴の次男である。思えば実相寺昭雄も西村晃も既に彼岸の人となってしまった。

ところで、実際の「学天則」はドイツに売却後、行方不明になっている。これはいかにも寂しい。荒俣宏はここにヒロイックなドラマを盛り込む。陰陽道や風水を大衆に知らしめた作品らしく、「学天則」は鬼の妨害で滞った地下洞穴の掘削に赴くという役回り。地下鉄敷設のためのトンネルが「龍脈」に突き当たったせいで鬼が出るという設定だ。無事ダイナマイトの設置に成功した「学天則」は鬼の妨害で退避叶わず、日本初の地下鉄のためのマイルストーンとなって果てる。余談。日本地下鉄の父、早川徳次を演じた宍戸錠が本人そっくりなのが面白い。

大阪市立科学館が復元した「学天則」は実のところかなりの部分を想像に拠っている。というのも実物は前述の通り現存しないし、設計書なども残されていないらしいからだ。残された断片的な資料から復元されたそれが、どこまで当時の「学天則」を再現し得ているのかはわからない。また、動作の制御自体はコンピュータを採用しており、当時のドラム式制御を再現しているわけではない。その意味では完全な復元というよりは、現代に復活した「学天則」といった方が当たっているのかもしれない。それでも当時の独創を十分に伝えているとは思う。

とにもかくにも、2008年7月18日の一般公開が楽しみだ。

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