羽田健太郎=マクロス=庵野秀明=DAICON

羽田健太郎が亡くなった。

コンポーザーでピアニストの、人呼んでハネケンである。一般には“題名のない音楽会21”の人といった方がいいかもしれない。けれども、ぼくにとっての羽田健太郎は、マクロスである。“超時空要塞マクロス”は1982年から1983年にかけて放送された人気アニメなのだけれど、実は、ぼくはリアルタイムのファンではない。完全な後追いである。

きっかけは高校時代に友人が家に持ち込んだ“超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか”のビデオ。1984年公開の劇場版である。初めはなんてこっ恥ずかしいアニメなんだと逆毛立てながら観たのだけれど、次第にその驚異のクオリティに引き込まれてしまった。その後、原典のテレビ版をLD-BOXまで買って見たことはいうまでもない。

まあ、テレビ版初見の感想は惨憺たるものだったのだけれど、ここではその辺りの詳細は割愛する。ともあれ、主人公一条輝がF14トムキャットそっくりの可変戦闘機、バルキリーで出撃するシーンで必ず流れる音楽は、ぼくの脳にしっかりと刷り込まれた。‘ドッグ・ファイター’というその曲は、今もぼくの携帯のアラーム音になっている。

ところで、このマクロスという作品には、後にエヴァで一世を風靡する庵野秀明も参加している。これはひとつのエポックだったといっていい。どういうことか。つまり、今でいうオタクが、作品を享受するだけの立場から作り手へと進出し始めた、恐らく最初期の作品なのである。後にGAINAX社長となる山賀博之もここで演出デビューを果たしている。

この辺りの事情に詳しい人には今更な話題ではあるけれど、庵野秀明と山賀博之とは大学時代に寮で知り合っており、GAINAXの前身ともいうべきDAICON FILMで、有名な“DAICON4オープニングアニメ”を作ることになる。DAICON4というのは大阪で1983年8月に開催された日本SF大会の愛称で、そのオープニングを飾ったのが件の短篇アニメである。

これが自主制作アニメとしては破格のクオリティで、それこそオタクがプロの実力を手にした瞬間だったといえる。ただし、この“DAICON4オープニングアニメ”には、実はすでにプロとして実績のあった板野一郎、平野俊弘、垣野内成美といったアニメーターが参加している。その意味では、完全なアマチュア作品ではなかったのである。

ここで注目すべきはDAICON4の開催日である。

先に書いた“超時空要塞マクロス”最終回の放送が1983年の6月26日。DAICON4開催が同年8月20日から21日。つまり、DAICON4の頃には、庵野、山賀といった主要メンバーたちも、すでにプロのアニメーターとして経験を積み始めていたのである。そのきっかけはさらに2年ほど時を遡る。1981年の第20回日本SF大会、DAICON3の開催である。

後のオタキング岡田斗司夫らが中心となって開催されたDAICON3で、岡田は大阪芸大の学生だった庵野らにオープニングアニメの制作を依頼する。この“DAICON3オープニングアニメ”こそがすべての始まりだったといっていい。正真正銘のアマチュアだった庵野らの作った8mm短篇作品がアニメ雑誌などで大きく採り上げられ評判になったのである。

これを契機に、庵野、山賀は上京を果たす。マクロスを仕掛けたSF企画集団スタジオぬえがアニメ制作会社であるアートランドに紹介する形で、その制作に関わることになったのである。ここで、女性キャラの描き手として評判をとった平野俊弘や、ケレン味溢れる空中アクション板野サーカスを生んだ板野一郎らと親交を結ぶこととなる。

つまり“DAICON4オープニングアニメ”は当時の新進気鋭のアニメクリエーターたちが作り上げた恐ろしく豪華な自主制作アニメだったのである。この成功をその場限りのお遊びにすることを良しとしなかった岡田斗司夫は、1984年、山賀博之らと共にGAINAXを設立し“王立宇宙軍 オネアミスの翼”を制作するに到る。

また同じ頃、庵野はマクロスの人脈を辿って、宮崎駿監督“風の谷のナウシカ”の作画にも参加している。巨神兵のシーンを担当し、後のDVDではコメンタリーをつけたりもしている。以来、庵野は宮崎、板野の両名を自らの師と呼び、また庵野は、板野自身が板野サーカスの完全継承者として認める数少ないクリエーターのひとりでもある。

斯様にDAICONとマクロスが後のアニメ界に与えた影響は計り知れない。

余談だけれど、2005年のテレビドラマ“電車男”のオープニングは、実は“DAICON4オープニングアニメ”へのオマージュのような内容になっている。制作はハイクオリティな作画で知られるアニメ制作会社GONZOである。そしてGONZO設立の主要メンバーは、なんと元GAINAX社員である。DAICON FILM、GAINAX、GONZO。

その血は今も脈々と発展継承されているようだ。

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先日は思わぬ出会いを果たせて感動の極みでした。

夜勤入りの際患者さんのテレビで羽田氏の訃報を知り驚愕いたしました。
私にとっても羽田さん=「マクロス」です。
仲間内ではガンダムネタばかりがとびかうなか、アンチガンダムかつマクロス派にとってはりりこさんの記事は感涙モノでございます。

ともちんさん、いらっしゃいませ。
先日はどもでした。ブログは相変わらずジジムサイ話題でもちきりです。コンセプチュアルな世界観という意味では、マクロスはガンダムに遥か及ばない作品なんだろうと思います。お陰で、ぼくのような遅れてきたファンにガンダムはあまりにハードルが高すぎて、いまいち一所懸命になれない。というか、既にその山に挑戦しようという気すら起きません。その点、マクロスは実にユーザーフレンドリーです。それは主にテーマよりは演出で見せるアニメだったからでしょう。この軟派さがたまりませんね。

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