勝間和代と森の愉快な読者たち@小学館

去る1月23日の金曜日、勝間和代さんに会いに行ってきた。

勝間さんの著書『読書進化論』(小学館101新書)のキャンペーン企画に感想文をトラックバックで送り付けたところ、なにやらセレクト賞というのを貰った。著者を交えた座談会が、いわばその賞品だったわけである。ぼくは限りなく大阪寄りの京都府下に住んでいる。東京は遠い。が、ヒキコモリ気質の癖に根がお調子者のぼくは、わざわざ有給休暇を取って行くことにした。行くのかよ、と。とはいえ、座談会のためだけというのはいかにも辛い。時間的にも予算的にも、だ。ついでだからと、安ホテルに連泊することを決めた。もちろん、東京見物を兼ねようという算段である。

会場となった小学館は東京は神田神保町、靖国通りから少し下った大通り沿いにある。近くまではずいぶん早く着いていたのだけれど、同道した連れと古書店街をうろついたり、旨いと教えてもらった珈琲店で一息ついたりしている内に時間ギリギリになってしまった。座談会場にたどり着くと、すでにぼく以外の参加者全員が顔を揃えている。まったく面目ない。最初から緊張感のないやつだと思われたかもしれないけれど、そうでもないことはその後の上ずった態度で十分に伝わったはずである。唯ひとり関西からの参加でありながら笑いのひとつも取れなかった。極めて遺憾である。

参加した森の愉快な読者たちは、ぼくを含めて6人。感想文もそれぞれに個性的だけれど、書き手自身も実にバラエティに富んでいた。花を売る人ビジネス書を売る人バイオ研究の人絵本をニュージーランドに送る人マンションの管理人をしている人…みんな、こんな機会でもなければ一生話すことなんてなかったかもしれない。これをして読書がぼくを進化させたとまでいっては、いかにも牽強付会にすぎるだろう。が、お膳立てされたものでもアウトプットが出会いを生んだことに違いはない。たとえ一期一会でこれきりになったとしても、参加した甲斐はあったと思う。

勝間さんは大方のイメージ通り、理知的な印象の人だった。といっても、才気煥発、理路整然として、何かを滔々と語ってみせたわけではない。まず、参加者に喋らせることを優先したせいだと思うけれど、そもそも主導権を握って多くを語るような場面はなかった。ただ、色んな発言を引き取って短く端的に応答する様は頭の回転の速さを感じさせたし、きっちり的を射ていて気持ち好かった。今ひとつ回転の鈍いぼくとしては、直接、勝間さんにぶつける問いをきっちり用意していかなかったのは失敗だった。機転が利かない上、日常生活に余裕がないとこういうときに損をする。

もちろん、ぼくが日頃の対人スキルの低さを存分に発揮したことはいうまでもない。末端でWeb制作に携わる者のひとりとしては、『読書進化論』のWebプロモーションがどの程度の効果を齎したのか、また、著者として、出版側の人間として、今後の書籍とWebの関係を考える上で新たにどんな知見を得られたのか、といった辺りが個人的には今回の興味の焦点だった。にもかかわらず、まったくもってうまく話の穂を接げず、表面的な話に終始してしまったのは些か心残りである。結局のところ、「読書の未来を語る」というテーマに合った話はあまりできなかったようにも思う。

ともあれ、こうした企画に積極的に「乗せられる」のも、案外、悪くないとは思った。


【関連リンク】
小学館:読書進化論
#発端になった『読書進化論』のキャンペーンサイト
小学館:読書進化論
#受賞した感想文のインデックス
ブログ書いたら「勝間和代と読書の未来を語る会」に招待された。 - ミームの死骸を待ちながら
#セレクト賞のHashさんがいち早くアップした熱々のレポート。世辞を書いても何も出んよ。
絵本旅行社ブログ | 20090124
#大賞受賞のゆきなさんによる長編レポート。ぼくの抜けっぷりが地味に暴露されている。
小川さん、私は勢いで書くタイプです:part-timer-Mammy:So-net blog
#セレクト賞のMammyさんによるレポートの序章。勝間さんの印象は、うん、確かに。
205  山羊とキツネ:保険人生劇場:So-net blog
#セレクト賞、多川さんのレポートではないまったく異色のアウトプット。
yuachi-log: 「勝間和代と読書の未来を語ろう」会に向けて
#セレクト賞、yuachiさんの座談会直前エントリー。首を長くして続報待ち。

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絵本をニュージーランドに送る人@愉快な読者です(笑)。23日はお会いできてうれしかったです。やっぱりlylycoさんの文章はウマイなぁ。ビシッと伝わってきましたよ。個人的には私も自分のふがいなさを感じて落ち込んでしまいました。勝間さんのするどい速球を受け止めきれず、返せなかったりかわしてしまったりだったので(涙)。でも貴重な体験をさせていただきました。これも何かのご縁ですので、今後とも交流よろしくお願いします。

> ゆきなさん
あの日はお会いできて、ぼくも楽しい時間を過ごさせていただきました。ずんだ餅(まんじゅう?)も美味しくいただきました。ご馳走様です。文章ウマイとか…照れますね。遠慮せず、もっといってください。褒められて調子に乗るタイプです(笑)。それにしても、ああいう場でちゃんといいたいことをいうためには、やっぱり、それなりの能力が要りますね。慣れや性格もあるんでしょうけれど、特に場に馴染むのに時間がかかるぼくみたいな人間には厳しい。この人見知り、なんとかならんものか…。ともあれ、こちらこそよろしくお願いします。

面白そうなご経験されてますね。
僕は勝間さんという人にはとくに関心持ったことがないので
このお話自体に関して直接にはコメントもないのですが

個人的に、ネットでの広義の言論というのは、ネットで完結してしまっては無意味であり、
どこかで、例えばこの座談会のようにでも
リアル(という言い方もなんだけども)で顔を合わせたりというような何かに繋がってなければダメなんじゃないか・・・・と常々思っています。
ただの懇親イベントには興味ないですけど。

こういう、ブックマークしてあるブログへの匿名コメントというのがまさにそれであり自己矛盾も甚だしいのですけども。

絶対に覆面を脱ぐ気のないことを前提とした名無しさんという身分は、
到底ともに語るに足りない人間の屑にとってのみ真に相応しい身分なのかもしれない。
それ以外の可能性、「匿名だから可能になるすばらしいこと」をさぐる実験はもう十二分に済んだのではないか。
と、いったようなことが気になる昨今です。

23日は遠くからありがとうございました。本当に短い時間で申し訳ありませんでした。駆け足でしたが、私にとっては、まったく違う職業、個性を持つ方々が、ブログ感想文コンクールの結果、現実に勝間さんと語り合っている、という事実が、本当に興味深かったです。そして、事実は、小説より…と申しますが、あのわずか2時間弱をそれぞれの方が、ブログでなんと個性的に表現してくださっていることでしょうか。lylycoさんらしい報告をありがとうございます。コーヒー店は、どこにいかれたのでしょうか。古くからあるお店は、さぼうる、とか、ぶらじる、エリカ、など趣があります。ブログ感想文キャンペーンでウェブ飛鳥人の私が感じたことは、フィルターをひとつ加えると、リアルとは違うけれど、質の高い出会いが作れるな、ということでした。ウェブの世界に広がる果てしなくフラットな感じが、私個人としては不安な空間に感じてしまっていたので。長くなってしまいました。これからのlylycoさんのご活躍を応援しております。引き続き、101新書と、勝間さんをよろしくお願いいたします。

> nさん
必ずしもネットとリアルを繋ぐことが(自分にとって)有意義だとは限らないのでしょうけれど、別個のものと決め付けてしまうよりはフレキシブルに利用し、行動していく方が面白いことには出会えるかもしれない。今のところはそんな風に考えています。そもそも匿名性とオフラインでの繋がりは、たぶん相反するものでもないですよね。オンラインのコミュニケーションツールを使って、匿名のまま誰かと会って膝つき合わせて語り明かすなんてことも可能でしょうし。まあ、面が割れるのも厭だとなると少し難しいですが。ともあれ、個人的にはまだまだ匿名は匿名でありだと思っています。一方で、ネットがなければ得られなっただろう体験が得られるチャンスがあるなら、極力尻込みせずに掴みにいこうとも思っています。

> 小川さん
こちらこそ、先日は貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました。まさにアッというまに時間が過ぎてしまって、貴社を出てからあんなことやこんなことも訊けばよかった!と色々考えてしまいました。それでも、本とネットとリアルが繋がる体験という意味では、ああした場に居合わせることができただけでも有意義だったと、企画されたみなさまには本当に感謝しています。Web制作者としても、考える糸口をもらったような気がしています。ありがとうございました。ちなみに、教わって行った珈琲店は「壱眞珈琲店」というお店です。実は「さぼうる」もお店の前までは行ったのですが、時間の都合で入れずじまいでした…。

遅ればせながらですが・・・。23日はお世話になりました。と言いたいところですが、隣に座っていながら、お話しできませんでした。お父さんと私が同じ歳と言われると・・。私には息子もいないし、口のきき方にも困ってしまいます。
それはともかく、23日は勝間さんの情報収集に協力できたのなら、まずは良しとしなければならないでしょう。本というものは、予想外、想定外の人が読むことも多い、という実例の生き証人になったのは光栄であり、愉快なことです。自分を棚に上げて言えば、どうしてこの五人の方が読んだのか不思議だ、と私自身思うほどです。まあ、だからこそ、我々自身が『読書進化論』が本物であることを身をもって証明したことになるんですが。
本当は、6人じゃなくて、7人だと、荒野の七人、みたいに語り継がれ易かったかも。6で良い言葉ありますかね。六地蔵じゃしょうがないし。
ただ、ひとつだけ付け加えると、私自身、家族の居る前では本は読みません。ですから、御父君も、家族の知らないところで読んでるんじゃないかな、と言う気がしましたが、さて、どんなものでしょうか。私の年代だと、趣味の本を買う人が多いという小学館の方の話でしたが、ほんとにそうかな、と思います。もちろん、データ的には出版社の話が正確でしょうが、違うな、という実感がありました。余談ですが・・。
まとまり無くて恐縮ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

> 多川さん
ぼくはそもそも人見知りな性質なのですが、ほとんど個別に他の参加者の方々とお話しすることもなく散会になってしまったのは、少し残念でしたね。あの後、個人的に人を待たせていたこともあり、時間のある方を誘って…という展開にも持っていけずでした。
確かに、ぼくの父が本を読んでいるかどうかは、父が本を家に持ち帰らない限り分からないですね。家の蔵書が増えている様子はありませんが、どこかで読んでいる可能性は捨てきれませんし。それはさておき、多川さんのようにインターネットに親しんでいないことだけは確かですね。父と同年配の方がああいった場に積極的に参加されているのを見て、ぼくもそうした積極性をずっと持ち続けたいなあと思いました。というわけで、こちらこそ、よろしくお願いいたします。

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